たとえ刺さる人数が少なかろうと、その「音楽」が人の心を揺さぶったなら、それもまた「正義」だ。『文悲朗/俺たちバンドマン』

たとえ刺さる人数が少なかろうと、その「音楽」が人の心を揺さぶったなら、それもまた「正義」だ。

「ロックは衝動だ」「ロックは情熱だ」「ロックは生きざまだ」。掲げる理由は何だっていい。その言葉が、表現者を突き動かすパッションに繋がっているのなら、それでいいじゃないか。そう、「ロックはモテるための道具」でも「ロックで一攫千金」でも、「ロックで世界中を愛で繋ぐ」でも、その人が「それがロックだ」と意志を持ってその言葉を掲げたのなら、それが正解だ。ただし、その人にとってのね…。

 

そんなことを書きながら、ロックという言葉の意味に正解も不正解もないのが、正しい答え。いや、その人の思い込みこそが「正解」であって、その思い込みに共鳴する人たちが多くなるほど、その「正解」が世の中的に評価されるということだ。

 

世の中で大ヒットしている音楽が、東京ドームなどの巨大なホールを埋めつくロックアーティストの音楽が、一つの「正解」となるのも、その「正解」の分母が大きいからでしかない。

 

けっして負け惜しみで言ってるわけではなく、分母が大きいことが「正義」ではない。たとえ刺さる人数が少なかろうと、その「音楽」が人の心を揺さぶったなら、それもまた「正義」だ。

 

その言葉に「うんうん、わかるよ」と頷いてしまうのも、その歌が「人の心にも刺さる真実ばかり」だから。

文悲朗(ふみひろう)という一人のアーティストの音楽に出会った。

 

耳にした「俺たちバンドマン」という楽曲の中で、彼は、こんなことを歌っていた。

URL https://www.youtube.com/watch?v=uh3wKsn8nwE

 

「激安チェーンの居酒屋もしくはサイゼで打ち上げ

始発で帰って寝て起きてバイトの時間がやってくる

 

あの娘を食わせてやるのに一体何年待たせたろう

愛想つかされて逃げられたけど辛いことは全部歌にするのさ」

 

ロックじゃねぇかよ、その生きざまが。

何があっても「好き」を徹底して貫き続ける。

自分の視点から見た世の中への不平不満(単なる言い訳)を堂々と歌にしながら、彼は世の中へ思いきりぶつけてゆく(フラストレーションを吐き出すとも言う)。

 

そりゃあ、売れたほうが幸せだろう。

好きなことだけで食べていけたほうが嬉しいだろう。

 

でも、自分が生きてゆくうえでの心の支えが、自分を歌で表現することであるなら…。

自分が生きてく上での理由付け(言い訳)が、音楽で自分を示すことなら、それもまた絶対の「正義」だ。

 

 

文悲朗の魅力は、自分の感情を隠すことなく、感情のままに歌や歌詞にぶつけてゆくことだ。

「情熱の歌」と言ってしまえば、その通りだ。

むしろ、ここまでド直球で「感情」を突きつけてゆく様が、とても清々しいし、格好いい。

 

人によっては、その生きざまを「ダサい」というだろう。

でも、「ダサい」くらい情熱をぶつける姿ほど、そこには「現実(リアル)」が生きている。

たとえ同じ体験をしていなくとも、その言葉に「うんうん、わかるよ」と頷いてしまうのも、その歌が「人の心にも刺さる真実ばかり」だから。

そのうえで、「誰もが隠したがる言葉を、真正面から堂々とぶつけてゆく」から。

 

すっごく現実的な言い方をしてしまうが、自分は文悲朗のような生き方はしたくない。

若い頃なら「格好いいな」と、きっと憧れや共感の視線で見ていただろう。

でも、おっさんになった今は、自分が生きるための環境を守り、持続しようという、糞みたいな保守的な人間(一般大衆)になっている。

 

だから文悲朗へ向け、「本気なら、その生きざま、ぜひ貫いてほしい」と身勝手な応援の言葉を向けたくなる。

まぁ、本人からしたら「うっせぇよ!!」となるだろうな。

だって、文悲朗自身は、自分の等身大な気持ちを歌にしながら、ナチュラルな姿を、そのまんま音楽に投影しながら生きているだけなんだもの。

 

24時間中、30分だけはロックスターの自分になれる。

音楽が生きるうえでのすべての中心。その瞬間は、自分がスーパースターになれる。たとえそれが30分のステージだろうと、24時間中、30分だけはロックスターの自分になれる。

そのために23時間半、その瞬間のために「生きる」日々を重ね続けられる。

 

文悲朗は、「俺たちバンドマン」の中で、こうも歌っている。

 

「六畳一間の窓から世界中に愛を届けようぜ

どんなにバカにされようと それはアンコールだありがとー」

 

と。

 

「やってみなくちゃあわからない

今日も歌い続ける俺たちバンドマン

 

明日も歌い続ける一生バンドマン」

 

と。

 

飾らない無鉄砲な生きざま、格好いいと思うよ。

 

【TEXT:長澤智典】


【作品情報】

『君のためのロック』
01. 俺たちバンドマン
02. ロックの神様仏様
03. 土下座ロック
04. やけっぱちラブソング
05. 逆恨みラバーズ
06. 涙がこぼれそうな夜は
07. ロックンロールってなんだい
08. 全部取り戻せ!!
09. 一日百回でも
10. 素敵な人よ~僕の家にあそびにおいでよ~
11. 小田急線はどこまでも
 


Amazon Music

Spotify


【Official Twitter】

文悲朗(Twitter)


【ライブ情報検索タグ】 文悲朗