“人とのつながりに疲れた心を癒してくれるのは、それでも人とのつながりなのかもしれない。”　そんなことをふと思わせてくれるハートフルソング『橋爪もも／猫です』

2021年5月29日

前世は男の子だった、生まれ変わった猫の半生を優しいメロディで綴った楽曲

“拝啓、猫です･･･”主人公である“僕”の挨拶から始まるこの曲は、前世は男の子だった、生まれ変わった猫の半生が約6分間に渡って綴られている。物語の始まりに少し衝撃的な表現はあるものの、よくよく深く考えてみたら、それは極めて特別だという事柄でもなく、場合によっては稀にありうることだろうし、全体を通せば、極々平凡な日常が優しいメロディにのせて奏でられていく。

何故、猫に生まれ変わったのだろう･･･

主人公である“僕 ”はどうやら生まれ変わる前の記憶は少しあるらしい。でもすべての記憶があるわけでもなさそうである。彼は何故、猫に生まれ変わったのだろうか･･･。

それを紐解くヒントになるかもしれない描写もある。どうやら人間の世界に居た頃も、生まれ変わった今も、彼は孤独という寂しさを抱えているようである。筆者の勝手な考えだが、人間の世界で、もしかしたら、人とのつながりに疲れを感じていたのではないだろうか。そしてその疲れから逃れるようにして、猫の世界にやって来たのではないだろうか･･･と。でも、結局は“一人きりで寂しい･･･。”そう感じる日々でもあるようだ。

ある日出会った“彼女”との穏やかな日々の中で大切なことを思い出していく･･･そして･･･

そんな“僕”ではあったが、ある日、偶然出会った(もしかしたら、お互いにとっては必然だったのかも知れない)“彼女 (おばあさん)”と穏やかな日々を過ごしていく中で、ずっと忘れていた”大切な事”を思い出す。それは生まれ変わった時には失われていた前世での記憶でもあるようで･･･。

そしてその後、“彼女”との突然の別れも経験することになるけれど、しっかりとその事実を受け止めている“僕”がいる。

当初は少しすさんで、陰鬱な雰囲気も感じさせていた“僕”だったけれど、“彼女”との出会いによって少しすさんでいた心が癒され豊かになり、そして、その“彼女”との別れも経験し強くもなっていったようにも思える。

人とのつながりに疲れた心を癒してくれるのは、それでもやはり人とのつながりなのかもしれない。そんなことを感じさせる“僕”の変化でもある。

そして、物語最後に送られる“僕”からのラストメッセージはシンプルな言葉ではあるけれど、とても心に響く･･･。

この曲を聴くたびに何となく「大切に思う人に逢いたい」そんなことを思う。

ここまで、筆者なりの、この曲を聴いて解釈したあらすじや感想を綴ってきたのだけれど、恐らく聴く人によって、それぞれの解釈の生まれる曲だと思う。それは、描かれているのが特殊な、特別な日常ではなく、誰にでもありうる、極々平凡な日常だからではないだろうかと･･･。

だから、聴く人それぞれの中で思い浮かべた“僕”はそれぞれがとてもリアルに、それぞれの傍で生きているように感じるかもしれない。

この曲を聴くたびに筆者は「大切に思う人に逢いたい」と思うし、逆に「逢いたい」と感じた時にこの曲を聴きたくなる。

橋爪ももが伝えたいのは、もしかしたらもっとシンプルなことなのかもしれない…。

実は橋爪もものYouTubeチャンネルには、この曲のミュージックビデオ（https://www.youtube.com/watch?v=kw2NFcMiwMo）が公開されている。優しいタッチの全編アニメーションによる映像なのだが、そこには歌詞には表れてこない“僕の前世の記憶”がフラッシュバックするような形で、ほんの少しだけ映像として表現されている。

そこから想像するに“僕”は前世では大好きで大切なお母さんに突然の別れを経験させてしまったようで、生まれ変わった今は逆に大好きで大切なお母さんのような“彼女“との突然の別れを経験したようである。

自然災害や未知のウイルスなどにより大切な人を突然失くしてしまうかもしれないという不安を、より煽られる近年ではあるけれど、物語のように極々平凡な日常の中でも当然のごとく、そんな不安というのは実は存在しているのに、平凡だからこそ、つい忘れがちになってしまう。だけど、特別な、特殊な事ではなく、誰にでも、いつでも、大切な人との突然の別れがやってくることはありうることなのだ。だからこそ”今“を、”大好きな人“を大切にして欲しい。そんな想いを”僕“からのラストメッセージに込めたのかもしれない。